大貫伸樹の書物楽会

2005-12-07装丁探索其の九十二(櫻井書店-13)

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フェミニンでカラフル

 

櫻井書店の第二作となる織田一麿装丁、佐藤春夫『わが妹の記』(櫻井書店、昭和16年3月)は、櫻井書店にしては珍しいくらい、カラフルで、可愛い装丁の本だ。タイトルを意識しての女性的な装丁なのだろう。

 

この装丁は、当初、まだ面識はないが、櫻井が気に入ってたくさんの絵を購入している放浪の画家長谷川利行に依頼しようと考えていた。長谷川の絵を扱っている画商の天城俊彦に装丁斡旋を依頼し,二人で板橋の施療院に入院している長谷川を訪ねる。長谷川から「最中ト大福モチ二円ホド御持参ノコト」という見舞いに来て欲しいとのハガキをもらっている天城は、3ヶ月ほど前にも「来ルトキ下駄ヲ一足買ッテ来テ下サイ」との催促を受けながらも無視していたので、櫻井からの話は、長谷川を訪ねるには、丁度よいきっかけでもあり土産話ともなるので、はがきで頼まれていた土産を買いこんで、長谷川の喜ぶ顔を思い浮かべながら、勇んで板橋養老院を訪ねる。

 

しかし、訪ねたときは時すでに遅く、長谷川は病院で窮死し遺骨は無縁仏として養老院に保管されていた、という。天才画家長谷川利行の受難の記が櫻井均『奈落の作者』(文治堂、昭和53年)に印象深く描かれている。

 

櫻井としは、この本そんなやるせない経緯を払拭するかのような明るい装丁で出版したかったのではないだろうか。この装丁には、そんな織田一麿の創作意図だけで生まれたのではない、もう一つの背景があったように思える。

 

松本八郎「『世の中へ』を出版した桜井書店の桜井均」(「スムース文庫」08)に、「佐藤春夫の『わが妹の記』は桜井書店からの発行で(一九四一年三月)、この表紙の装画には長谷川利行の絵が使われている。」との記載があるが、ここに掲載した織田一麿装画のほかに、長谷川の絵を使った異装本があるのだろうか。「スムース文庫」08には写真の掲載がないので確認はできない。

 

織田一麿のサイン

 

挿絵家のサイン(モノグラム)というテーマで、ここ何年間か資料の収集を続けているが、解読が難解なサインを何とか解読してみると、な〜んだ、という事が多い。いわゆるコロンブスの卵である。

 

織田一麿のサインも左図を見たときには、漢字なのか平仮名なのか、はたまた英字なのか、1文字なのか複数の文字の合成なのか全く解読の手がかりつかめなかったが、『わが妹の記』の表紙に記載されている右圖のサインをみて、わずかの違いから、な〜んだ、とすぐに理解できた。

 

左図のように〇の中に英字のBを逆さにしたようなサイン解読は難解だったが、右図での〇囲みは、英字のOで、その中に小文字のdとaがデザインされているのがすぐにわかり、胸のつかえが下りた感じがした。

 

 

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